眼瞼けいれん
自分の意志とは無関係にまぶたがピクピクして止まらない、顔の片側がけいれんする、首が曲がったままになった・・・・。
このような病気を、食中毒菌として恐れられているボツリヌス菌の毒素を利用して治療する方法があるのだそう。
眼瞼けいれん、片側顔面けいれんは中高年に多い
治療の対象となる、眼瞼(がんけん)けいれんはどんな病気?
A 最初は、眼の周囲がピクピクするので疲れだと思い、近所の医院などでビタミン剤をもらっていたというような患者さんが多いですね。
中にはまぶたが突然勝手にギュッと閉じたり、目が閉じたまま明けられなくなってしまう場合もあります。
そのため、なにかと日常生活が不便になる方もいます。必ず両側に起こるのが特徴です。
方側(へんそく)顔面けいれんとは?
A 片側の目の周囲や、ほお、くちびるがピクピクけいれんする病気です。
これは顔面神経のそばの動脈が、動脈硬化などで神経を圧迫して起こるものです。
そのほか交通事故の後遺症などでも起こります。
若い人にも発症しますが、いずれの病気も50〜60代の人に多くみられます。
特に女性の患者さんが目立ちますが、これは美容上の問題があるため、症状が軽くても女性にとっては深刻だからかもしれません。
発症原因がいまだによくわかっていない痙性斜頸
痙性斜頸(けいせいしゃけい)とは?
A これは首が勝手に横を向いたり、ねじれたまま戻らなくなる病気です。
何か一定の行動をしようとすると、症状が出る場合が多く、手を添えると戻ることもあります。
男女、年齢に関わりなく発症し、重症になると仕事ができなくなる場合も少なくありません。
従来の治療では薬物療法、手術、神経ブロック療法などが行われていましたが、決め手となる治療法はありませんでした。
昨年認可されたボツリヌス治療に期待しているところです。
治療は注射のみ
ボツリヌス治療とはどんなものですか?
A ボツリヌス毒素製剤を興奮している筋肉に注射すると、異常な指令が筋肉に届かなくなってけいれんが治まります。
症状や個人差により薬の量や注射の個所は異なります。治療は数分で完了し、針も細いのでたいした痛みはありません。
いずれも早い人は2〜3日で効き始め、1ヶ月ほどでピークに達します。
欧米では歴史のある治療法
ボツリヌス毒素による治療は、いつごろから行われているのでしょうか?
A 欧米ではこうした症状に効果が高いと80年代から実施されていました。
日本では世界より15年ほど遅れて96年に眼瞼けいれんが、そして昨年6月に痙性斜頸の治療が追加承認されました。
メリットとデメリット
そのほかの治療法は?
A 眼瞼けいれんの飲み薬は効果が少ないうえ、眠気やふらつきなど副作用が多く今はあまり使いません。
重症の場合、周辺の神経を切ってけいれんを止める手術も行われます。
片側顔面けいれんは微小血管減圧術という手術で圧迫している動脈と顔面神経を引き離すことで根治できます。
しかし、もともと命に関わる病気ではないため、なかなか踏みきれないのが実状です。
痙性斜頸も、従来の治療法ではいずれも確実な効果は得られません。
昨年認可された、ボツリヌス治療に期待しています。
ボツリヌス治療法のメリット、デメリットは?
A メリットはよく効くこと
患者さんの満足度も高く、治療法としては第一選択といっていいと思います。
デメリットは根治療法ではなくあくまでも対症療法であること。
軽度の場合、1度の注射で半年〜1年ほど持つ人もいますが、平均3〜4ヵ月程度で効果が切れるので、その都度注射が必要になります。
資格のある専門医へ相談を
副作用が心配ですが。
A 熊本では昔、ボツリヌスによる食中毒事件があったため、驚く患者さんもいますが、菌を直接使うわけではありません。菌が作る毒素を精製した麻酔薬を使って治療すると考えてください。
薬の量も微量ですから、インフォームド・コンセント(説明と同意)をしっかり行い、十分な知識のある医師が治療を進める限りは、重大な副作用は起こりにくいと考えています。
まれにまぶたが閉じにくくて、顔を洗うとき水がしみる、口もとがゆるむなどの副作用が起こることもありますが、
数週間で回復します。痙性斜頸の場合、首の両側に打つと、物が飲みこみにくくなることがあるので、十分注意して治療を進めます。
治療を受けられない人は神経と筋肉の接合部に障害がある人、高度の呼吸障害のある人、妊婦、または妊娠している可能性がある人、授乳婦、本剤に過敏症の既往歴がある人です。
受診する場合は何科ヘ行けばいいのですか?
A 主に神経内科や眼科などですが、扱えるのは、厚生労働省指定のセミナーを終了した医師のみです。
ボツリヌス治療は「眼瞼けいれん・片側顔面けいれん・痙性斜頸」以外には認められませんので、資格のある専門医に、
症状をしっかり診てもらうことが肝心です。
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